MS、「ゲイツ氏移行後」の準備は万全か?

Microsoft創業者のビル・ゲイツ氏が慈善団体の運営に自身のフォーカスをシフトした後で、Microsoftのビジネス手法が大きく変化するかどうか、関係者の間で意見が分かれている。

News Analysis:Microsoft創業者のビル・ゲイツ氏が慈善団体、Bill and Melinda Gates Foundationの運営に自身のフォーカスをシフトした後で、Microsoftのビジネス手法が大きく変化するかどうかについて、関係者の間で意見が分かれている。

 ビル・ゲイツ氏がBill and Melinda Gates Foundationの運営に自身の時間の大半を費やし、レドモンドのソフトウェアメーカーで仕事をする時間を大幅に減らすという形に移行するのに伴い、 Microsoftの対外的および社内的なビジネス手法が大きく変わるのだろうか。

 誰もがこの疑問を口にしているものの、Microsoft幹部や財務アナリスト、研究者、業界観測筋の間で一致した見解はなく、ほとんど変化はないだろうとする予想から、巨大かつ重要な変化があるだろうというものまで、見方が大きく分かれている。

 Microsoftの会長兼チーフソフトウェアアーキテクトのビル・ゲイツ氏は2008年に、同氏が31年前に創業した同社の経営を退き、慈善事業に専念すると表明した。同氏は6月15日、会長職には今後もとどまるとし、「自分がMicrosoftの会長でなくなることは考えられない」と語った。

 ゲイツ氏が日々の業務から引退するのに伴い、レイ・オジー現CTO(最高技術責任者)とクレイグ・マンディ元CTOが経営の舵取りをすることになる。オジー氏はチーフソフトウェアアーキテクトの肩書きを引き継ぎ、マンディ氏は最高研究・戦略責任者に就任する。

 マンディ氏は、eWEEKが6月15日に行ったインタビューで「Microsoftの今後のビジネス、特に製品開発の分野では大きな変化はないだろう」と語った。

 「当社では豊かな企業文化が確立されている。31年間にわたって当社を率いてきたビルは、消すことのできない足跡を当社に残した。多くの人々が当社の中で“成長”した。今後も基本的に、われわれスタッフの成長を支えてきた手法を踏襲する。今回の移行に伴う急激な変化はないだろう」(マンディ氏)

 マンディ氏によると、自分とオジー氏はゲイツ氏のパーソナリティと異なるが、この5〜6年間、Microsoftが成長・成熟する中で3者は経営に関する議論を重ねてきたという。

 「このため、各製品グループの開発方針に関しては大きな混乱はないと思う」と同氏は話す。

 オジー氏は2005年4月、MicrosoftがGroove Networksを買収した際にMicrosoftに入社した。オジー氏はGroove Networksの創業者であり、その前には、Iris Associatesの創業者兼社長としてLotus Notesの発明と初期段階の開発を手掛けた。

 オジー氏とマンディ氏との間の責任分担に関しては、オジー氏が製品開発および製品化を主に担当することになる。これは、6月15日のゲイツ氏の引退発表の直後に行われた電話取材の中でオジー氏が明らかにしたもの。

 「インキュベーションと最先端の開発がわたしの基本的な任務だ。当社が出荷する製品や市場に投入する製品がわたしの担当分野になる」とオジー氏は語った。

 オジー氏によると、チーフソフトウェアアーキテクトという同氏の新たな肩書き(6月15日付で就任)での最優先課題となるのがWindows Liveだという。「わたしが6カ月前にサービス戦略を打ち出した最大の理由は、サービスがMicrosoftの変革を促す最大の触媒になると考えたからだ。今後、ありとあらゆるMicrosoft製品にサービスが関連付けられるようになる」と同氏は話す。

 Burton Groupのアナリスト、ピーター・オーケリー氏も、ゲイツ後の戦略に大きな変化はないという見方をしている。

 「短期的な戦略には大きな変更はないだろう。ある意味では、レイ・オジー氏とクレイグ・マンディ氏は、彼らの従来の役割の範囲を単に拡大するだけであるため、混乱につながるような組織的変化はないと思う」とオーケリー氏は話す。

 オーケリー氏によると、新リーダーとなる両氏はともに、それぞれに与えられた役割に適任であり、MicrosoftがGroove Networksの買収を完了して以来、このことが予定されていたとしても不思議ではないという。

 Citigroup Investment Researchが6月15日夜に公表した調査メモによると、2年間という移行期間があるため、同社は今回の動きがもたらす影響について懸念していないという。「ゲイツ氏は、これまでの組織再編ならびにオジー氏の雇用を通じて、組織面での準備を進めてきたとわれわれは考えている」と同社は記している。

 「最近の製品出荷の遅れや、株価の下落という状況を見れば、ゲイツ氏のような思想的リーダーを失うことは短期的に士気の低下を招くかもしれないが、その一方で、新世代のリーダーたちが同氏の陰から姿を現し、広告やゲームなどの新しいビジネスモデルを発展させ、Windows Liveのソフトウェアサービス構想を開発するチャンスを与えるだろう」(同メモ)

 マンディ氏も全く同じ見方をしており、「ゲイツ氏は6月15日の発表の中で、自身の偶像的地位とマスコミ報道のため、同社の技術開発と業務執行における自身の役割が過度に強調されるきらいにあると指摘した」とeWEEKに語っている。

 「移行の成功例はすでに存在する。ビルからスティーブ・バルマー氏にCEOの地位が移って6年以上になるのだ。スティーブのリーダーシップの下、現在の多岐にわたる事業への対応ならびに絶対的な規模拡大に向けて組織的な変革を進めてきた」とマンディ氏は話す。

 この動き自体が、同社において新たなレベルのリーダーシップを生み出すとともに、スティーブ・シノフスキー氏(WindowsWindows Live技術担当上級副社長)、ボブ・マグリア氏(サーバ/ツールビジネス担当上級副社長)、ジェイ・アラード氏(コーポレート副社長兼チーフXNAアーキテクト)といった強力な技術リーダーの登場を促した。マンディ氏によると、XNAは、ゲーム開発者/パブリッシャーが抱える問題を解決するために Microsoftが提供する予定のツール/技術群である。

 「ビルが昔にやっていた業務の一部を、これらの部門がより直接的な形で担当するようになったのだ」とマンディ氏は説明する。

 しかしGoldman Sachsのアナリスト、リック・シャーランド氏のように、ゲイツ氏が向こう2年間でMicrosoftの日々の業務から離れることについて否定的な見方をする人もいる。とはいえ同氏は、2年間にわたる移行は整然としたものになると予想している。

 Microsoftと激しい競争を演じているライバル企業や、Salesforce.comのマーク・ベニオフ会長兼CEOのように同社に対して非常に批判的な人々でさえも、Microsoftの将来について否定的な予測を述べるのを控え、ゲイツ氏が業界で果たした役割を称賛している。

 「ビル・ゲイツ氏のような、技術とビジネスの両面に秀でた博愛主義的リーダーがいたことは、業界にとって幸運だった。彼はわれわれの世代のトーマス・ワトソン(訳注:IBMを世界的企業に発展させた人物)だ」(ベニオフ氏)